エコロジスタン

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1. プロローグ

 赤の国の領地にある砂漠地帯、この平坦な砂の世界を進んだ先に、突如として現れる奇岩群がある。かつてここに広がっていた岩の大地は、風と砂の侵食により硬質な部分だけを残して削られ、くびれ、ねじれた、奇妙な岩を生み出したのだ。中にはぽっかりとくぼみの出来たものもあり、まるで虚ろな眼孔のようにも見える。また、元々存在した岩盤の大きさ故だろう、それらは恐ろしく巨大なのだ。飢えと渇きと疲労の極限状態にある砂漠の旅人たちが、砂嵐の中から現れるこの岩を、魔物より恐ろしいもの――"鬼"と見紛って狂乱し、砂の中に消えて二度と帰らなかった…という話は、一つや二つではない。このような場所をすき好んで訪れるのは余程の奇人か、"鬼"そのものだろう、並の魔物は滅多に近づきはしない。ましてこのような、皮膚も凍てつく寒さの夜に。
 満月の光が闇夜に奇岩群の輪郭を浮かび上がらせている。その中の比較的平らな、丁度横たわる生首のような形をした岩の上に、四つの影があった。三体の魔物と、細い人型の影である。魔物たちが震えているように見えるのは、決して寒さのせいではない。
 三体の前に立つ者、禍竜王シグマは月の光を背にしてじっと目を閉じていた。月に照らされた身体は不気味なほど白く、辺りにそびえる奇岩群同様、微動だにしなかった。部下である魔物たちはその様子を固唾を呑んで見守っている。
 凍てつく空気に包まれて肉体が、神経が、精神が張りつめる。岩の隙間を吹き抜けて奇妙な音を鳴らす風にも気を散らすことはない、シグマは極めて高い集中状態に至っていた。

  ――――――――

 閉ざした瞼の下に、渦巻く光が現れる…。

 精神を、研ぎ澄ましつつ己の外へ広げ、包括してゆく。そういうコントロールがシグマには出来た。すると渦もまた広がりを見せはじめ、だんだんとその中心が近づいてくる。勢いを増しながら、迫りくる。

(あと少し…、)

(あと少しで届く…)

しかし、迫りくるはずの渦には一向に届かない。すると渦は近づきながら遠ざかるような奇妙な挙動をとり、終いにはぐんぐんと離れ始める。止まれと願えど、シグマに渦の加速は止められない。近づけば近づくほど、求めれば求めるほど、遠く、遠くへと…。

(何故…どうして…)

(あと少しで…届くのに…)

 瞬間、目を見開いた。己の身体を、周囲を見渡すが、何一つ変わった様子などなかった。

「クソッ!また…!」

 風は素知らぬ様子て吹いている。辺りにそびえ立つ奇岩たちは、身体を歪めて嗤っているかのように見えた。  魔物たちは困惑した。先程まであんなにも落ち着き静かだったシグマが、突然前のめりに倒れかかり全身に疲労を浮かべている…一瞬にして、遥か遠い所まで旅をして来たかのような…。

「し、シグマさま!もうこんなことやめましょうぜ!」

「そうですよ!もし言い伝えの様に命を落とすなんてことが起きたら…!!」

「シグマさまは十分にお強いじゃないですか!七大魔将として遜色なく……」

 恐怖心を露わにする部下たちに目も向けず、シグマは俯いたまま息を整える。そして背後を振り向き、遥か遠く、天上高くにありながら広大な地を照らし出す月を見上げた。

プロローグ

「何故オレは、ウズマジンになれない?」

更新:2015/10/08

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